砂防堰堤について

①黒部川の特徴

黒部川流域は降水量が豊富でかつ豪雪地帯でもあり、流域平均の年間降水量は日本最大級で、山地の仙人谷では年間降雨量は約4,000mmもあります。また山地部の地質は花崗岩類が主体で、表層の風化が進んだ脆弱な岩であり、侵食が著しく地形も極めて急峻で、平均河床勾配1/5~1/80の日本有数の急流河川です。

黒部川流域全体の山地崩壊は約7,000ヶ所もあり、祖母谷、小黒部谷、不帰谷の3ヶ所で、「黒部三大崩れ」と呼ばれています。流出した土砂と集中豪雨により幾度となく洪水や土砂災害に見舞われる黒部川は、古来より暴れ川として「いろは川」「黒部四十八ヶ瀬」と呼ばれ恐れられていました。

   祖母谷崩壊       小黒部谷崩壊地       不帰谷崩壊地

祖母谷崩壊地   小黒部谷崩壊地  不帰谷崩壊地 写真引用:国土交通省 北陸地方整備局 黒部河川事務所

 

②黒部川の主な既住災害

昭和12年1月 森石谷で発生した土石流により、下流部の堤防が決壊し浸水災害が発生。
昭和19年7月 不帰谷で発生した大土石流により、本川合流点付近にあった錦織温泉が埋没、流出。
昭和20年7月 不帰谷、小黒部谷で発生した土石流により、下流部の堤防が決壊し浸水災害が発生。
昭和28年8月 不帰谷、小黒部谷で発生した土石流により、下流部の堤防が決壊し浸水災害が発生。
昭和44年8月 台風通過の影響で富山県東部山岳地帯に総雨量100~150㎜の大雨が降り、続いて前線の南下で山岳地帯に500㎜を超す集中豪雨で黒部川は上流の祖母谷第1号砂防堰堤が一挙に埋まり、下流では入善町の堤防が決壊し、宇奈月町愛本の愛本橋が流出、愛本堰堤からあふれた濁流が住宅地域にも流れ込み、被害額は10億円を超えました。
昭和51年5月 黒薙川上流のゼンマイ谷で地滑り性の崩壊が発生し、本川が2週間にわたり濁水となる。
昭和54年5月 祖母谷右岸で山麓崩壊が発生し、流出した土砂により祖母谷はせき止められ天然の湖ができました。
昭和55年5月 祖母谷硫黄沢で地滑り性の大崩壊が発生し水田、農業に多大の被害をあたえました。
昭和56年8月 不帰谷で山崩れが発生し、土石流が本川を埋めました。
平成  7年7月 猫又観測所では、11日17時から18時の1時間に64㎜の降雨を観測、黒部峡谷鉄道が土砂によって寸断されるなど、黒部川流域の各所では出水や増水が発生。宿舎の孤立化が進み土砂崩れや洪水も発生するなど、周辺地域は最大が被害に見舞われました。

 

③災害を防ぐため

3,000メートル級の北アルプス連峰から富山湾までを一気に流れる黒部川。その急流は時として洪水を起こし、いにしえから《暴れ川》として人々に恐れられてきました。黒部川上流には大規模な崩壊地がいくつもあって、いつ再び黒部川に流れ込むか予想できません。ひとたび大崩壊が起これば、黒部川の流れ込んだ岩や石が土石流となって下流を襲う危険があるのです。

昔の黒部川と現在の黒部川とは違っているところもあります。それは砂防堰堤です。

黒部川支流の崩壊地に数多く設置された砂防堰堤は、大規模な崩壊による土砂を食い止め、多くの人々が生活している流域を被害の危険から守り、黒部渓谷の自然を保護しています。砂防堰堤はあまり人々の目に触れることはありません。それは、人里離れた上流に造られているからです。

砂防堰堤はみんなの暮らしと命を守るための、頼もしい施設なのです。

 

④砂防堰堤のはたらき

砂防堰堤は、荒廃した渓流の上流で、土砂の生産・流出が著しいところに造られます。砂防堰堤は、上流から流れてくる土砂を貯留し下流への流出を軽減するとともに、渓床に溜まっている不安定な土砂の流出を防止します。

また砂防堰堤が満砂すれば川幅を広げ渓床勾配を緩くし、土砂流や流水の力を弱めることができ、渓岸崩壊を防止したり、一時的に土砂を貯留し、下流への土砂流出を軽減し、土砂災害を防止します。

 

⑤スリット砂防堰堤について

小黒部谷第2号砂防堰堤は、スリットタイプ(透過型)のコンクリート砂防堰堤となっています。

スリット砂防堰堤は、渓流の水理的連続性を損なうことなく(流れをさえぎることなく)平常時には土砂を流下させる一方、土石流や洪水中の土砂の流出(ピーク)を捕捉し、洪水の後半、または中小出水時に、その土砂を流下させるものです。

このスリット砂防堰堤により、 渓流の下流に必要な粒径の土砂が流水によって供給されるとともに、魚類、渓流昆虫、野生動物等がスリット部を通って、堰堤の上下流を移動する事が可能となります。

祖母谷下流第2号砂防えん堤

祖母谷下流第2号砂防えん堤

 

⑥スリット砂防堰堤の土砂調節機能

       スリット砂防堰堤を正面からみた図

①スリット砂防えん堤を正面から見た図イラスト

   

1.中小洪水時

②中小洪水時イラスト

 

スリット部で流れがせき上げられない規模の小さい(中小洪水時)流量のときは、下流へ土砂を流します。

 

 

 

2.大洪水時(ピーク時)

③大洪水時(ピーク時)イラスト

 

流量が大きくなって流れがせき上げられると土砂を一時的に堆積させます。

(※せき上げ: 堰堤の上流側で水がせき止められ滞留するため水位が高くなること。)
 

 

3.減水時

④減水図イラスト

 

出水の後半、水位が下がってくると、堆積していた土砂が再び、スリットから下流へ流れます。